一票の格差に反対のブログ

民主主義のブログです。

結局「郵便局と農協」を改革するには、政権交代するしかないですね?

 ともに全国に根を張り、自民党の支持団体として政治力を備える「郵便局」と「農協」。不合理な組織体ゆえ、何度も改革のメスを入れられながらも、しぶとく生き残ってきた。彼らが頑なに組織防衛を図るのはなぜなのか。日本郵政の問題に深く切り込んできた朝日新聞経済部記者の藤田知也氏、農業ジャーナリストとして農協の闇を追及してきた窪田新之助氏が語り尽くす。


 藤田 かんぽ生命の販売現場では、ノルマがあまりに苛烈で、年に200本から300本の保険の販売が課される例があった。月に20人以上の新規契約を獲得せよとは、あまりに過重なノルマです。

 そんな環境だから、不祥事が相次ぎます。いい加減な説明で郵便局を信用するお年寄りを言いくるめて、保険を売りまくる局員がいた。顧客が不利益を被ると知りながら、元から加入している保険を解約させて、新しい保険に切り替えさせる回転売買のような手法も広がっていました。

 窪田 JAでもノルマを達成するために、友人に無理に保険に入ってもらい、その保険料を職員が立て替えるケースがありました。年間に数十万円は当たり前で、300万円以上も「自爆」する例もあり、現場はますます疲弊していく。

 詐欺のような事例も相次いでいます。損害保険の不正請求などが各地で相次いでいますし、特に長崎県では営業職員の大がかりな不正が発覚して、問題を追及された職員が「自殺」しました。

 藤田 共通するのは、保険を売りたい組織の思惑が現場に大きな歪みを与えていること。ところが、郵政グループも農協も、不正販売の根本原因を認めようとしない。かんぽ生命の不正を報道していたNHKに対して、郵政グループが圧力をかけたことも明らかになっています。

 窪田さんもかつて農業系ネットメディアでJA共済の自爆営業について記事を執筆したところ、JA共済連からの圧力で記事が削除されてしまったそうですね。

みんな「ムラの掟」に従う
 窪田 はい。組織的な問題を指摘され、それが事実であれば、改めればよいと思うのですが、メディアに圧力をかけて問題を隠蔽しようとするのは理解に苦しみます。

 藤田 かんぽ問題でも全特の問題でも、不正を改められない背景には、組織の同質性のようなものがあると思いますね。全特の会員である郵便局長たちは親の代も局長や郵便局勤めで、家族みんなで郵便局を支えてきたという人たちが多い。時代が変わっても、組織の意向には逆らえない「ムラの掟」のようなものを感じます。

 典型的な例が福岡でありました。九州支社副主幹統括局長は、同じく郵便局長になっていた息子がパワハラ内部告発されたことに激怒。告発は日本郵便本社の内部通報制度に則った正当なものだったのですが、「仲間を売ることは許さん」と、「犯人探し」のために配下の局長を恫喝しまして有罪判決を受けました。

 恫喝された側の父親も元郵便局長で、統括局長は家族のことまで持ち出して吊し上げた。彼らは誤りを正したり、仕組みを変えたりすることよりも、「ムラの掟」を第一に考え、逆らう者を排除しようとする傾向がある。

 窪田 農協でも組合長が子弟を農協職員にすることは、当たり前のように行われています。そうなると彼らは、組合員に対するサービスよりも、自分たちの生活のために組織を維持することのほうが大切になってしまう。そのために、手数料を手っ取り早く稼げて、当座の赤字を埋められる金融事業に邁進するしかなくなるのでしょう。

 藤田 郵便局が変われない理由には、全特の強力な政治力が背景にあるようにも感じています。かんぽ生命の不祥事を受けて、'20年に日本郵政グループの持ち株会社日本郵政社長に就いた増田寛也氏は、全特の言いなりだった以前の経営陣と違い、不正に対して是々非々で対処する姿勢でした。当初、私は増田社長に期待をしていたのです。

郵便局長と選挙の繋がり
2016年には東京都知事選にも立候補した増田寛也氏/photo by gettyimages

 ところが、朝日新聞西日本新聞が、郵便局長による不適切な選挙活動など、政治がらみの問題を指摘するようになると様相が変わります。当初こそ「しっかり実態を調べる」と言っていた増田社長ですが、話がどんどんしぼんでいった。

 郵便局の顧客情報を不正使用した行為者は処分しても、その背景にある、なぜ郵便局長たちが選挙のために違法な行為に走ったのかという本質的な問題には切り込まない。

 窪田 政権の意向で日本郵政の社長に指名された増田氏は、政治と全特の関係には切り込めないのでしょうか。

 藤田 国が大株主の日本郵政は、やはり政治とは決して切り離せない事情があるのでしょう。全特の集票力は安定していて、'19年の参院選では約60万票を集めました。不正な選挙活動が問題視され、活動が縮小したことで、'22年の参院選では得票数が大幅に減りましたが、それでも40万票超を集めています。

 小泉政権郵政解散をきっかけに、全特の票は一時、国民新党民主党に流れましたが、第2次安倍政権以降、自民党に戻って重要な票田になっています。小泉内閣の総務副大臣として郵政民営化を支持した菅義偉元首相も、いまでは全特との良好な関係を築いている。

 窪田 政治力によって郵便局は何か恩恵を受けている点もありますか。

 藤田 日本郵便は、ゆうちょ銀行やかんぽ生命から窓口業務委託手数料を受け取っていますが、実はこの一部は郵便局のサービス網の維持を名目に非課税となっているのです。その結果、日本郵政は年間約200億円の消費税が減免されていることになります。

 窪田 政治力を背景に、税制面で優遇されているわけですね。私は農協と政治との関係はまだ十分に取材しきれていないので、これからの課題としたいと思います。

 藤田 消費税の減免措置も、郵便局網を維持するユニバーサルサービスのためだと言えば聞こえはいいのですが、実質は国民負担で不要な郵便局の延命を助長している面は否定できない。ただでさえ電子メールやネットバンクの普及で郵便局の存在感が薄れているのに、いたずらに郵便局の数を維持する必要はあるのか、大いに疑問です。

 窪田 農協にも補助金という名の血税が注ぎ込まれていますが、郵便と同様に農業は衰退の一途です。過重ノルマへの批判から、監督官庁農水省からは農協職員に「自爆営業」をさせないよう通達が出されました。これからJA共済の保険販売による手数料だけでは、各農協を支えられなくなるでしょう。

 そこで今度は、投資信託を販売する農協も出始めています。すでに現場からは、市場動向や顧客の利益に関係なく、JAにとって実入りの多い手数料率の高い投資信託が売られているなど、共済の二の舞になるとの声が上がっています。

負のスパイラルを食い止めよ

 藤田 ただ、『農協の闇』には、子会社化した農業事業で独立採算を目指すJA越前たけふや、ITを活用したネット通販やデータ農業を進めるJA伊豆の国など、希望の持てる先進事例があってうらやましく感じました。

 窪田 日本の農業産出額は9兆円程度ですが、食品産業全体で見れば実は100兆円の市場規模がある。国内の自動車産業の市場規模をはるかに上回っているのです。農協もただ農作物を集めて売って終わりではなく、直売、加工、外食など、農業事業を多角化して、いわゆる6次産業化を目指せば、まだ希望があると信じたいですね。

 藤田 私が取材してきた郵便局の世界には正直、希望がまだ見出せません。民営化してから十数年、窓口サービスの魅力や価値を高めると謳ってきたのに、特段の変化もなく、進化を続けるコンビニとの差は開くばかりです。結局、郵便局の数を守るために、魅力を高める努力を怠り、手紙などを集めて配る本業のサービスが低下し、ますます利用者が減るという負のスパイラルです。

 郵便局も本来は農協と同じように、統廃合が必要です。過疎化地域には週に一度の移動郵便局などの試みも考えていい。

 窪田 JAも郵便局も改革が進まないのは、結局、組織の腐敗が国民の目に見えなくなっているからかもしれません。

 藤田 それを追及するメディアの力も弱くなっていますね。しかし、郵便局の裏組織である全特や農協の共済ノルマといった組織構造の問題に世間の関心がもっと向けられないと、郵便局と農協の腐敗は変わらず、利用者や国民が結果的に負わされるコストや被害も膨らんでいくことでしょう。